第1章

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あたしは、智樹さんに会えたというのに、顔をこわばらせて、あとずさっていた。 「菜月……?どうしたんだよ」 安堵の笑顔を向けてくれていた智樹さんの顔は、あたしを見つめて戸惑いの表情に変わった。 「ごめんなさい、あたし……本当にごめんなさい」 もう、まともに智樹さんを見ることができない。 あたしはうつむいて唇をかんだ。 「何で謝るんだよ?こっち向けよ。どうして逃げる?」 智樹さんは苦しそうな顔をして視線をさまよわせ、ベッドの上の本に目をとめた。 「これは……」 智樹さんは、勢いよくその本を掴んだ。 あたしは、その距離を保つために、更に後ろに下がった。 悲しそうな智樹さんの顔があたしを見つめている。 「これを……読んだんだね」 低く言う智樹さんに、あたしは目を逸らしてうなずいた。 「ごめんなさい……ごめんなさい……」 智樹さんにだけじゃなく、母さんや父さん、すべての人に謝りたかった。あたしの存在そのものを。 「こんなもの信じるな。これには誤表記があるって言っただろ。俺のことだけ信じろ」 智樹さんが怒ったように言った。 あたしは下を向いたまま頭をぶんぶん振った。 「いいよ……もう、隠さなくてもいいよ……あたしは酷いことをした。これからもきっと、酷いことをする」 涙がとめどなく流れて止まらなかった。 少しの間押し黙っていた智樹さんが、床に本を投げつけて近づいてきた。 あたしは逃げるようにあとずさり、壁に行きどまって、行き場を無くした。 智樹さんは、腹を立てたようにどすどすと大またで歩いて、徐々にあたしとの距離を狭めてくる。 本当のことを知ったあたしの命を奪ってくれるのだろうか。 智樹さんの手を汚すのは本意ではないけど、智樹さんにそうしてもらえるなら、幸せな最後になるに違いない。 あたしは覚悟を決めて、震えながら歯をくいしばって目を閉じた。 するとふいに、とても暖かいものに包まれた。痛みを予想していたあたしは、驚いて目を開いた。
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