34人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
あたしは、智樹さんに会えたというのに、顔をこわばらせて、あとずさっていた。
「菜月……?どうしたんだよ」
安堵の笑顔を向けてくれていた智樹さんの顔は、あたしを見つめて戸惑いの表情に変わった。
「ごめんなさい、あたし……本当にごめんなさい」
もう、まともに智樹さんを見ることができない。
あたしはうつむいて唇をかんだ。
「何で謝るんだよ?こっち向けよ。どうして逃げる?」
智樹さんは苦しそうな顔をして視線をさまよわせ、ベッドの上の本に目をとめた。
「これは……」
智樹さんは、勢いよくその本を掴んだ。
あたしは、その距離を保つために、更に後ろに下がった。
悲しそうな智樹さんの顔があたしを見つめている。
「これを……読んだんだね」
低く言う智樹さんに、あたしは目を逸らしてうなずいた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
智樹さんにだけじゃなく、母さんや父さん、すべての人に謝りたかった。あたしの存在そのものを。
「こんなもの信じるな。これには誤表記があるって言っただろ。俺のことだけ信じろ」
智樹さんが怒ったように言った。
あたしは下を向いたまま頭をぶんぶん振った。
「いいよ……もう、隠さなくてもいいよ……あたしは酷いことをした。これからもきっと、酷いことをする」
涙がとめどなく流れて止まらなかった。
少しの間押し黙っていた智樹さんが、床に本を投げつけて近づいてきた。
あたしは逃げるようにあとずさり、壁に行きどまって、行き場を無くした。
智樹さんは、腹を立てたようにどすどすと大またで歩いて、徐々にあたしとの距離を狭めてくる。
本当のことを知ったあたしの命を奪ってくれるのだろうか。
智樹さんの手を汚すのは本意ではないけど、智樹さんにそうしてもらえるなら、幸せな最後になるに違いない。
あたしは覚悟を決めて、震えながら歯をくいしばって目を閉じた。
するとふいに、とても暖かいものに包まれた。痛みを予想していたあたしは、驚いて目を開いた。
最初のコメントを投稿しよう!