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不貞腐れたように新が言う。
「こともあろうか、望都には言えるのにね」
「……!」
やっぱり、新はこのことを怒っていた。
「す、すみません……っ」
ギュッと眉をハの字に垂らし、莉々子は謝った。
「怒ってるんじゃないよ。……いや、ちょっと怒っているけど、それは自分自身に、だ。莉々子の気持ちを聞き出せる技量がなかった」
「そんなっ、そんなことは……っ」
「じゃあなんで俺には言えないんだよ?」
新が唇を尖らせた。
ハンドルに腕を乗せ、ムスッとした顔は、今まで見てきたどの顔よりも魅力的だった。
お腹の底がきゅんと締め付けられる感覚を覚え、気づけばその頬に手を伸ばしていた。
「好き……すぎて、嫌われるのが怖かったんです……」
――嗚呼、そうだったんだ。
新のことが好きすぎて、誰よりも、何よりも臆病になっていた。
それが分かった途端、胃につっかえていた何かが、すっと消えていくのを感じた。
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