第四夜 明け方、四分間のタブー

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「それでさ、来週の日曜日の夜なんだけど、どうかな? 俺、昼間は時間空いてるんだよ。でも、八時以降は、どうしても都合つかなくて。だから、シフト交代してもらえると助かるんだけど──」 「ちょっと待って下さい。次の月曜日の講義、確認してみますから」  携帯をアゴと肩で挟み、カバンの中からスケジュール帳を引っ張り出す。パラパラとページをめくり、次の週の授業の予定を調べてみた。  午前中から抗議が入っているようなら、いくら僕でもシフトを交代するのは無理だ。 「ええっと、○○日ですよね。──ああ、午前中は休講になってますから、大丈夫ですね。代われますよ」 「お、マジで? 助かるよ。安西さんがダメだったら、どうしようかと思ってたんだ」  僕の返事を聞いて、電話の向こうの中條さんの声が安堵で弾むのが分かった。 「じゃあ、僕が日曜日の夜十時から翌六時までで、中條さんが朝十時から夕方六時までって事で」 「店長の方には俺からも連絡するけど、安西さんからも言っといてもらえるかな?」 「だったら、帰りに店に寄って伝えときますよ」  本当に助かったよ、恩に着る。そう言って中條さんからの電話は切れた。  あの様子じゃ、相当焦ってたんだろうな。さて、それはそうとして、これからどうしよう? 今さら図書館で調べ物をするって気分でもないし。  携帯の画面に目をやれば、もうすぐ六時になろうかという時刻だ。駅の近くのファミレスでコーヒーでも飲むか。その前に本屋に寄って、今日発売になているはずのコミックの新刊でも物色してみよう。  カバンのヒモを肩にかけると、僕は大学の敷地を歩き出した。  僕の住んでいる町は、中心を流れる川に分断されている。さして大きくはない川だが、隣町との境に差し掛かる頃には一級河川へと注ぎ込む。今でこそ護岸工事によってキレイに整えられてはいるけれど、二十年位前までは大人の背丈程の草が生い茂る土手が続いていたそうだ。  川が流れているからという訳じゃないだろうが、町全体が湿っている感じがする。そんな土地だ。│水捌≪みずは≫けが、あまり良くない。雨が降ったりすると、道のあちこちに水溜りが出来て、なかなかなくならない。  梅雨や秋の長雨の季節になると、まるで湿地で暮らしているような気になる。吸い込んだ大気に含まれた水分が、肺というフィルターを通して全身に運ばれる。
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