第1章 #5

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第1章 #5

 相当数の隊員がICカード式の電子ロック室内に閉じ込められたと言う速報がヘッドギア内部から通達され、ロイトフは若干の失意に囚われ立ち止まった。 (何等かの妨害工作は想定していたが、序盤で既に戦力の減少と言う痛手を蒙った様だ……)  別働隊の報告を分析するに、奴等の手口は以前の様に集音機能を逆用し轟音で相手の身動きを防ぐ様な単純な手段とも違う。奴等は人間の錯覚を最大限に活用し、我々を眩惑しようとしているのだ……。一次被害を受けた隊員達は人工的に偽造された物音や気配に誘導され、敵の目論見通りセキュリティ機能が高度な部屋へと閉じ込められたのだ。 これで当面の間、彼等の脱出は不可能。自動認証を通過する為の鍵情報を塔内関係者へ打診し転送させるか、内部に閉じ込められた隊員達が機転を利かせ何等かの技術手段で開錠させるか、叉は火器を用い鉄扉を破壊する様な強硬手段に頼るか……。いずれにせよ相当な時間の足止めを喰らう事は間違い無かった。 「どうしてあいつ等は無関係な部屋に閉じ込められたんだ?」 「もう嵌められた奴等が出てきたって言う事か……?」  早速の敵襲とその被害を見知った隊員達全体へ動揺が走り出した事をロイトフは敏感に察知する。士気を低下させない為に、ロイトフは動揺の気色を露わにする一隊へ向け空かさず恫喝の声を挙げた。 「皆、騙されるな! エス達の所在は屋上で間違いない!! 奴等は塔内の照明や立体音響を操作し、巧妙に人間の気配を演出しているんだ!! 銃声や奴の呼び声も現場で発せられた肉声ではない筈だ。あれは予め録音された音響で踊らされたに過ぎない。全ては我々を撹乱させ、分散させる為の罠だ」  言うが速いかロイトフは懐から小銃を抜き出す。そして射的競技の如く、等間隔で天井に設置されている室内スピーカー、及び監視カメラを的確に撃ち抜いて行った。幻覚を生み出す元凶を根本から断絶したのだ。  ロイトフの正確な判断と速決に見惚れ、後方の隊員達は直ぐに冷静さを取り戻す。 (特に監視カメラ映像を利用し、エス達は我々の動向を窺っている事は間違いあるまい。塔内にあるセキュリティシステムの主体的機能を麻痺させながら進軍すれば、自軍が相当な有利性を獲得出来る筈だ……!) 「何も臆する事は無い! 奴等は自ら袋小路に嵌り込んでいるのだっ!! 後は只跳ね回る鼠を追い詰めて駆除するだけ、それだけの事だ、私に付いて来い!!」
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