波兎

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 出木の首につま先を乗せた吉備は、落ちた日本刀の先を頬に当てた。そのまま両頬を貫通した刀が地面に突き刺さると、周囲に出木の悲鳴が響き渡った。 「あのゴミが"親"? 馬鹿を言うな、私にとっての絶対的な存在は、"あの方"しかいない。それ以外は全てゴミだ」  吉備が刺さった刀をそのまま顔の前側へ傾ければ、出木の千切れた口の端から血が吹き出し地面を濡らした。前田に壊されたアゴの骨が剥き出しになり、外れてしまった関節をどうにか肩で押さえた出木は、ただ悲哀だけを帯びた目で自らを見下ろす吉備に殴りかかった。それでも吉備の幻影は遠く、男の拳は闇に飲まれるばかりで、簡単に足をかけられた出木は再び屋上に転がった。 「さて、これで終わりにしよーー、ん?」  出木の頭を踏み潰そうと足を振り上げた吉備の動きが不意に止まった。そしてそのまま振り下ろすだけだった足裏をゆっくりと舞わせ、静かに足を降ろした。 「……まったく、君が騒ぐからだよ。"粗大ゴミ"に気づかれてしまった」
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