波兎

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「ハァ、ハァ、……あんまり舐めてくれんなよ。俺ぁ、これでも視力はアフリカさん並でね。おまけに地獄耳ときたもんだ」  屋上へ続く扉を開けたのは肩で息をする前田と江口だった。しかし二人が戦わずして満身創痍なのは誰の目にも明らかで、冷たい視線を向ける男へ脅威を与えるなど不可能な話だった。  血で染まった刀を拾った吉備は、徐にその先を江口へ向け、「無防備がすぎないかい?」と質問をした。慌てた江口が無意識に懐へ隠した銃を握るのを目にし、吉備は覆りそうもない状況の滑稽さに込み上げる笑いを抑えきれず吹き出した。 「わざわざそっちから出向いてくれるとは。むしろ好都合だ、ここならば誰に見られることもない。安心して君らを片付けられる」  吉備の言葉に男へ銃口を向けた江口は、「黙らないと撃つ」と宣告する。しかし慌てる様子一つない吉備は、未だ手探りで日本刀を探す出木の首を踏みつけた。 「私までの距離、およそ十六メートルと言ったところか。撃てるものならば撃ってみるといい。君の腕ではまず当たらない。しかし私は君らがもたつく間にも、君ら二人を殺すことが出来る。前田君が全快ならば、少しは勝負になったかもしれないが」 「……舐めんなっつってんだ、このヤクザ崩れが」
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