エピローグ

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 入り口の扉に手を駆け、言い忘れていたことを思いだし振り向かずに言う。 「『五人』に処罰はなさらないようお願い致します。彼らはしっかり仕事をこなそうとしていました。ただ、相手が悪かっただけですから。指示した人間が相手の実力を見誤っていたからこそ、今回の結果につながったわけですしね」  それでは。  見るまでもなく怯えきっているエディを残してアレスは書庫を出る。再び後ろ手で扉を閉め、そのまま黙って廊下を歩く。足早に絨毯の敷かれた城内を歩き、裏庭まで下りると、アレスは大声を上げて盛大に笑った。 「だ、駄目だ。書庫でよく堪えたな俺……くくくっ!」  アレスの登場に恐怖し、しかし気づいていない様子に安堵し、しかし発覚していたことへ怯え出す。怒りは確かにあったがあれほど情けない姿を見ては怒りよりも笑いが込み上げて来てしまう。よくあんな男が千人隊長などという地位に上り詰めたものだ。いや、恐らくは裏で何らかのつながりを持っていたからこその今の地位に違いない。でなければこの国の騎士の階級制度が間違っていたか。 「あー、腹いてえ。これからもちょいちょいいじってやろうか」  流石に酷過ぎるとは感じるのでやりはしないが、今日の反応を見るにまた試したいという欲望はどうしても生まれて来る。だが、今はそんな汚い自分も正面から受け入れられていた。 「自分を偽らず、素直に。そうすれば自然と私は付いていく、ね……。あいつ、平然と女の人に言ってなきゃいいが。ホントいつか刺されるぞ」  上官にして友の男を思い出して苦笑する。 (本当に俺は、いろんな奴に救われてる。少しでも恩返ししないとな……) 「アレスー! 帰って来たんでしょー! どーこー!」 「アシエス様、そんな大声を上げて走り回らないでください!」  少女と女性の叫び声が空から降って来る。暫く聞いていなかった、それでいて忘れることができそうにない、耳の残る声だ。もう二度と裏切ろうなどとは考えてはいけない、純真な心からの叫び。 「さて、それじゃあお姫様とお付きに叱られに行かんと」
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