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朔ちゃんの話。
言わなきゃ。
遠ざけようとしてるのに、その話をしてもっと距離を離してしまうんじゃないかって、怖い。
自分の中の何かが沸々と音を上げてる。
黙っていればいい。
話してもそこから何の未来も見いだせない。
離れていた時の事なんて。
でも。
「私の話をしていいですか?」
私の口は勝手に話し始める。
「今年の初め。二人辞めたの。
突然だったから随分と悩んだし、店の方も大変だった。
そんなとき、朔……山下さんが助けてくれたの。
彼は外回りや受注管理など手際よくしてくれて、うちの仕事なんかに時間を掛けせて申し訳ないと思いながら頼ってしまって。
次第に彼が頼もしく感じた。
仕事の行き帰りしか外に出ない私を車で連れ出してくれて、懐かしい田舎の空気に触れさせてくれて、
好きだ・・・と言ってくれて。
山下さんとお付き合いしていました。
達也さんを薄れさせるために。酷いでしょ?
独りはとても耐えられない、そんなズルい考えもあったのだろうと思うわ。
告白されるまま、お付き合いを始めたの。
達也さんのとは違うキスを受け入れたわ。
達也さんだと思いながら……」
暑いな。
暖房、効きすぎ。
そう言いながら立ち上がり、上着を脱いで暖房のリモコンを操作する。
数㎝、窓を開けて、外の風を入れる。
磯の香り?
海が近いのかしら。
きっと聞きたくなんてないんでしょう。
そんな風に背中が言ってる。
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