エピローグ

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「肉だあ! 肉が来たー! 兄ちゃん、高級肉が来たよッ!」 「肉が歩いてきたみたい。ひどい」 「あっ、ごめん……つい夢中で」 ずしりと重い肉を受けとって、あらためて再会のあいさつ。 下へも置かぬふるまいで、丁重に中へ案内する。 猛に追われて、かくれてたミャーコまで、やってきた。 蘭さんをひとめ見るや、親しげに体をこすりつける。 すごい。蘭さんの魅力はメス猫にまで効くのか。 「よくわかったねえ。うちの場所」 「そりゃ、もともと京都人ですから。住所見たら、だいたい、わかります」 「こんなボロ屋に来てもらって、悪いなあ」 夕食は、きゅうきょ、しゃぶしゃぶ。 ミャーコに甘い猛が、高級牛をあたえようとするので、僕は兄の手に、しっぺした。 「ダメっ。舌が肥えて、高い肉しか食べなくなったら、どうするの?」 「きっついなあ。かーくん。いいだろ? ミャーコだって、うまい肉、食いたいよなあ?」 ミャーンと、こんなときだけカワイイ声をだすミャーコ。 「ミャーコのご機嫌とろうと思ってるんでしょ。ミャーコにはカルカンで充分」 「そう言わず、ゆるしてあげたら、どうです? 肉なら、僕が、しょっちゅう持ってきてあげますよ」 「えっ? ほんと?」 しょっちゅうってーーやっぱり、ひきこもりは、やめたのか。 まだ戦闘服ではあるものの、スゴイ進歩だ。 蘭さんはゴマだれの皿を置いて、僕と猛とミャーコと食卓をながめる。 「いいですね。こういうの。じつはねえ……たった一週間で、さみしくなっちゃって。 一人の部屋って、こんなに静かだったかなって。夜中に涙がでるんですよ。 ここに大海がいてくれたらって思うと……涙が止まらない」 うっ。もらい泣き。 しかし、兄は、むとんちゃくに言うのだった。 「赤城さんに、いっしょに住んでもらえば? あの人、泣いて喜ぶぞ」 「僕はゲイじゃありません。誰でもいいわけじゃないんだ」 「だからって、かーくんは、やらないぞ。おれが、さみしいじゃないか」 「大丈夫。僕が京都に引っ越してきますから」 「ええっ?」と、これは僕。「引っ越すって……そうか。実家に帰ることにしたんだ」 「それは兄が許さないでしょう。 この近くにマンションを買います。セキュリティのしっかりしたやつをね。 三LDKくらいの部屋を買って、そこに、あなたたちの探偵事務所を置くっていうのは、どうでしょう?」
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