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雪菜さんが背負う罪。
香川さんが背負う罪。
そして、先生が背負う罪。
【恋愛】という感情の中で、それぞれ掛け違えた糸が複雑に絡み合い、その糸はやがてイバラの棘となり身体に食い込んだまま離れない。
ある日、突然と愛情が憎しみに姿を変えることはあっても、憎しみを愛情に変えることは難しい。
恋愛は人間に最高級の幸福感をもたらし、時に人間の最も卑劣な本性を引きずり出す。
香川さんの言葉の中に隠された真実。
私はきっと、未だ知るべき真実を知らないまま彷徨っている。
……私たちの関係は終わったのだと、先生は本当に香川さんに言ったのだろうか。
もし本当なら、どんな状況であの人とそんな話をしたの?
どうしてあの人にそんな事を言ったの?言う必要があるの?
先生が私との別れを決断していたとしても、なぜ何も言わずに私を避けるのかが分からない。
それに、ナースステーションで見た彼のあの眼差し……あの表情の意味はなに?私に何を言おうとしてあんな悲しげな眼をしたの?
もしかして、あなたの中で本当に終止符を打たれてしまったの?
私が深津さんを選んだって、どういう事なの?
どうして、杏奈さんまで私を避けるの?
どうして?
どうして?
こんなの嫌だ。受け入れられる訳が無い。
こんな形で終わりを迎えるなんて、信じられない。
信じたくない。
あまりに唐突で否定ばかりが頭を巡り、悲しみを感じる間も無く茫然として、不思議と涙も出て来ない。
心に燻るのはとりとめの無い違和感。
私の時計の針はあの日のまま静止しているのに、
どこかで私の知らない私の時間が、独り歩きしているような気がする――――。
「……」
「……おいっ!安藤っ!」
「……」
「おいっ!聞いてんのかよっ。お――――いっ!安藤――っ!」
物思いに耽る私の耳に、大きな声が無理やり捻じ込まれた。
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