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聞こえてきた言葉が信じられず、思わず声を漏らした。すると、スマホを顔から離していたことが災いしてか、俺の言葉を『はい』と勘違いした叔母さんが歓声をあげた。
「まー、よかった! 他に手が空いてる人居なくて困ってたのよー!」
「いや、待っ、叔母さん……!」
「紺野さん家は週に二回だから、日時は明日直接相談してね。それじゃあ、よろしく!」
受話器を置く音がして、それから通話が切れたことを知らせる無機質な機械音が続く。
俺は耳からスマホを離すと、すぐさま電話を掛け直した。しかし、どれだけ待っても叔母さんは電話に出ない。
さっきまで電話しとって、何で出られへんねん! わざとか! わざとなんか!?
苛立ちを露わに、畳にスマホを叩きつける。その指の先に、何か柔らかいものが触れた。
「……あー、もう……」
深く重いため息を吐いて、畳に倒れ込む。
そして、指先に触れたもの……さやか先輩のハンカチを手に取り、その両端を摘んでぶら下げた。
この苛々も、もやもやも、意味が分からない。
分からないけど、たぶん三井先輩じゃなくて、俺が先輩の涙を拭いてあげたかったんだということだけは、なんとなく分かっていた。
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