第五章【特訓】

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ストン、と力が抜け、俺はベットに沈み込んだ。 こんな感覚は久しぶりだった。 今この国に、俺をここまでやりこめる奴が何人いるだろうか。 自分でも、中々の腕前だと自負しているこの俺に、完膚なきまでに負けを認めさせることの出来る男。 いやまあ、流石に将軍とかは無理だけどな。 小さなため息を一つ吐き、ゴロンとベットに横になる。 シーツに顔を埋もれさせれば、強く香るトトの匂い。 堪らなく愛しくて、愛おしい存在。 この二つの言葉の意味を、いつかトトに伝えられたら、なんて。 もう、想いを伝えることは出来ないのだろうか。 そんな資格、俺にはないのか。 スン、と、深く息を吸い込んだ。 いつもなら二人だけの匂いで満たされているはずのそれは、さっきまでいたあいつの香りも少しして。 言われた言葉がグルグル回ってどうしたらいいか分からなくなった。 愛しくて、愛しいからこそ、 だからこそ、苛めてしまう相手。 冷静になった俺の頭に浮かぶのは、涙を浮かべる悲しげなトトの顔だった。 だって、どうしたら良いか分からねえんだ。 大切にしたい。 愛したい、喜ばしたい、だけど、泣かせたい、悲しませたい、苦しませたい。 相反するこの気持ちが、常に衝突して。 苦しくて苦しくて仕方がねえんだ。 分かってるさ。 トトの方が苦しい思いをしてるってことは。 あいつは恨んでいないっていっていたけど、そんなはずない。 今までトトにしてきた仕打ちを考えれば、恨まれたって仕方ない。 仕方ない、が、トトなら、なんて。 そんな淡い気持ちがあることは否定できない。 分かってる、分かってるんだ。 あいつが優しいだけの存在じゃないってこと。 俺が謝った時に、 軽蔑の目で、嫌悪を含んだ色で見られるじゃないかと思うと、怖くて恐くて、 息の吸い方さえ忘れてしまいそうになる。 許される為に謝りにいくんじゃない。 あいつはそう言った。 それは、分かったけど、 でも、 俺は、 「こわ、い…っ」 小さく口から出た言葉は思いの外響いた。 自然と出てくる涙は拭えずに、ただシーツに次から次へと新しい染みを生んでいく。 深い深い後悔はやがて絶望に変わり、それは……… レマクク SidEnD
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