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それは夏の蒸し暑い夕暮れ時であった。
道行く人々が、皆疲れの色を顔に浮かべながら其々の帰路についている時間だ。
普段ならばそのまま家に帰るのだろう、しかし今日は誰もがある場所で足を止めていた。
古いアパートが並ぶ住宅街の近くにある、普段ならば人目に触れない程小さな公園。そこに立ち入り禁止だとばかりに引かれた黄色いテープの先、見慣れた制服を着込んだ数名の警察官の足元に青いビニールシートで何かが覆われている。
青いビニールシートの周りは、覆いきれなかった赤黒いシミが公園の遊具や周辺の土を染めていた。
好奇心から足を止めた人々は、その見慣れない光景に暫し目を奪われる。ブルーシートの下にあるのは何だと好奇の目を向ける。
足を止めたギャラリーの中でも特に好奇心旺盛な学生達は、通学鞄や制服のポケットから各々携帯を取り出しカメラを起動させていた。カメラに気付いた警察官に自制するようにと指摘されるが、反応はそれぞれで大人しく仕舞う者も居れば、仕舞うふりをして写真を撮り続ける者と様々だ。
平穏な町で起こった殺人事件。その現場に居合わせている事に、興奮を抑えきれていない様子がありありと分かる。
そんな野次馬の視線に不機嫌な表情を隠そうともしない警官、朝比奈麗華(アサヒナレイカ)はじろっとテープの向こうで携帯のカメラレンズを向けている学生達を睨みつけた。
「殺人が物珍しいからって、仏を無断でカメラに収めるのはどうかと思うんだけど……」
忌々しげに口を開く麗華に、その怒りを含んだ声を耳にした他の警察官は心なしか青い顔で麗華から距離を置く。
彼女の言い分は最もだが、殺人どころか強盗すら滅多に起こらない町で突如町の警察官が総出する程の事件が起こったのだから無理もないだろう。彼女もそれを理解しているだけに、口調はきついが声は抑えている。
何せ捜査課総出になる程凄惨な状態で発見された遺体は、麗華すら慄く程のものだったのだ。
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