第2章:ただ春の昼の夢のごとし

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 当たり前のことだが、制服を着ると私服を着る機会が格段に減る。また、明陵高校は土曜日にも課外授業が組み込まれるため、丸一日の休暇は日曜日のみ。泰然として不動を決め込み屋上で時間を空費してきたその男が、週にたった一日の完全休養日に自宅にて優雅に思索にふけっていたのは無理からぬ話だろう。  すなわち、男は他人に私服を披露する機会を完全に逸したまま二年生になろうとしているわけである。そうすると、どんな恐ろしい事態が訪れるか想像できるだろうか。  鏡には中肉中背の男子が映っていた。顔立ちは聡明さを感じさせると言えないこともないわけではない。セーターは伸びきって緩んでいる。  加えて経年劣化による多少の色落ちもユーズド加工風であるかもしれないし、逆にその下に着たシャツは縮んでしまっているのでバランスとしては丁度良いという意見も出る可能性がある。またボトムスは大胆に柄物のパッチワークをあてがっており、最先端である。  最先端すぎて着ている本人も良さに気付けないほどだ。
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