なれない事はするもんじゃない

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「おや?机や椅子まで作れる材木まで屋敷(うち)にあったかねぇ」 今度は髭をヒクヒクしながら珍しく不思議そうに言うと、リリィが気まずい顔をして、それから一気に、小さな頭を柔らかい薄紅色の髪がふわりとする程に賢者に下げます。 「ごめんなさい、賢者さま。実は物置の納屋の中にあった、少し壊れていた昔の机と椅子をアルスくんと見付けて、それを少し修理すればとても素敵そうだったから、頼んで修理して貰っています!」 おでこと膝小僧が付きそうな勢いで、頭を下げる秘書の少女にウサギの賢者は少々、長い耳をピピっとさせる程に呆気にとられますが、直ぐに軽く苦笑いをして、リリィに頭をあげるように言い聞かせます。 「うん、まあ頭をあげなさい、リリィ」 秘書の少女は頭をあげながらも、まだ少し気まずそうでしたが、賢者はそれでも構わずに穏やかに声をかけました。 「異国には『親しき仲にも礼儀あり』という言葉があってね。意味は言葉を1つ1つ考えてもたなら、はっきりじゃなくても何となくわかるよね?」 ウサギの賢者が優しい声で、リリィに尋ねます。 「……仲良しでも、礼儀を忘れちゃいけないって事でしょうか?」 素直に答えた事に、ウサギの賢者は、満足そうにウンウンと頷きました。 「その通りだね。物置にあるのを使うのは、本当に全く構わないけれど、やっぱり一言尋ねて欲しかったかな。 もしかしたら、ワシがリリィに隠して物置に魔法の失敗作いれてるかもしれんしね」 ウサギの賢者は少し茶目っ気を込めた言い方をして、そのまま"話が聞ける事が出来る"少女に、言葉を選び、続けます。 「でもねぇ、親しいのに礼儀正しすぎても「水くさい」なんて感じる人もいる。 かと言って図々しくなるのもいけない。 一緒に暮らす、生活を共にする人に対する礼儀が一番具合が難しいのかもしれない」 「はい、わかりました、気を付けます。私、賢者さまやアルスくんとずっと一緒にいたいですから」 リリィの、少なくとも自分が伝えたかった事を理解をしてくれた返事に、ウサギの賢者は、本当に嬉しそうに笑って―――"よっ"、と声をだして椅子から飛び降りました。 「さて慣れない書類も一段落ついた事だし。大工のアルスくんの腕前を一緒に拝見しにいこうか、リリィ?」 「はい、賢者さま!」 そう言ってポテポテとリリィと一緒に歩いて、短い腕で書斎の引き戸をスルリと開きました。
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