なれない事はするもんじゃない

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「『貴族は貴族で息が詰まる』と出逢った頃のアルセンはよく言ってたよ。 貴族である事で、衣食住の心配はないだろうが、向かない人にはとても気苦労の多い『仕事』なんだろうなぁ、と我慢強いアルセンが溜め息つくのを見て感じたなぁ。社交界の華やかな生活も、毎日続いたなら大変だろうしね」 「『仕事で楽なもの何かない』って本当なんですね」 ウサギの賢者の言葉に感じ入ったように、リリィは頷きつつ、それから気を取り直すように、書類をトントンと机の上で整えて、大判の封筒に詰めました。 「では、この書類はもうすぐいらっしゃる、リコさんとライさんに渡しますね」 ニコニコとそう応えながら賢者の秘書は、丁寧に封をします。 「おや、あのお二人さんがくるのかい?」 意外という感じで、ウサギの賢者はギョロリと円らな瞳を動かしました。 一方のリリィは楽しみでしょうがないと言った感じで、書類の入った封筒を胸に抱いてまだ微笑んでいます。 「はい。何でも護衛する方が、この法案吟味する役職なんだそうです。 で、護衛する方が吟味する為に、王宮で連日瓶詰めのように籠もっていらっしゃるので、今は暇なんだそうですよ」 そんなリリィを見て (う~ん、やはり女の子は女の子同士でお喋りするのが楽しいんだね~) とウサギの賢者は改めて感じいることになりました。 「アルスくんが今、リハビリがてらに、庭でお茶が出来るようにって、簡単な机や椅子も増やして作ってくれているんです」 ウサギの賢者のたった1人の「護衛隊」で新人兵士でもある、アルス・トラッドは1ヶ月ほど前に「訓練指導」において上半身に強烈な打撲を受けました。 一週間はベッドで安静にして漸く痛みは引きましたが、上司であるウサギの賢者からは一応まだ大事を取る様にという事で、この屋敷で主な仕事だったの「買い出しの荷物持ち」も休むようにと指示されています。 が、生来と言うか性分というかアルスと言う人間は、どうも周りが働いているのに自分が休むということが苦手でした。 余りに退屈そうに居室のベッドで横たわっていたので、「簡単な大工仕事ぐらいなら」と条件付きで、ウサギの賢者は、アルスの体を動かす事をとうとう許可します。 そして一番最初に作ったのが、配属されて一番最初に作ると約束していた、リリィの為の台車となりました。 image=491972530.jpg
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