プロローグ

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まあこういう時もあるか。 これは、ある一人の男子高校生の口癖の一つである。 例えばの話だが、行く時は快晴だったのに帰りはドシャ降りの状況に陥ったら、少年は今朝の天気予報に悪態をつかず、その口癖を呟いて雨に濡れながら帰り道をそそくさと辿っていくだろう。 買いたいマンガの残り一冊を別の誰かに目の前で取られてしまったら、同じように唱えて、あえて読んだことのない本を手にとって楽しんでしまうだろう。 ファミレスでパフェを注文したのにお子様ランチが出てきりしても、いつもの呪文を口にして落ち着き、笑顔で注文を見直してもらうはずだ。 こういう時もある。今自分は数ある内のこういう出来事に直面し、こういう選択をして進んでいる。進むことができている。このポジティブな思考のおかげで、少年は産声を上げてから十七年の時を経た今日この日まで、一度も後悔の二文字を感じたことがなかった。 言い切ってしまえるほど、人生を謳歌してきた。 「――はは……いや、笑えないって……」 そう、謳歌して『きた』のだ。 今日この日――この時までは。 「これがあなたの運命。 そしてこれが私の役目。受け止めなければなりません」 銀色の髪を靡(なび)かせる少女は、怯える少年を宥めるように言葉を紡ぐ。 ゆっくりと詰め寄り。力が抜けて動けない相手を静かに、簡単に押し倒すと、腹部に馬乗りになって身動きを封じる――。 そして。
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