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時刻は午後20時過ぎ――
佐々木家のダイニングにて、黒斗は目の前に広がる惨状を黙ったまま見つめていた。
「おーさまだーれだっ!? おーさま、おれだー! はい、はい! 一番は二番の人にチッス、チッス!」
「なんやー! どうせウチなんか色気も胸もペッタンコですよー、断崖絶壁ですよー、色気皆無(かいむ)ですよーだ」
箸を振り回しながら大声で騒ぐ玲二と、ダンダンとテーブルを叩きながら意味不明なことを言う鈴。
2人の顔は、ゆでダコのように赤く、目もトロンとしている。
夜中にも関わらず騒ぎ立てる子供達に注意をするべき大人であり、教師であり、母親である佐々木はというと――
「誰も、私の話なんか聞いてくれない……グスッ、私の何がいけないっていうのよおぉ……」
テーブルに真っ赤な顔を突っ伏しながら、ブツブツ呟いていて――要するに“出来上がっていた”。
(……どうしてこうなった)
額に手を当てて、何故このような事態に陥ったか黒斗は思い出す。
時は遡(さかのぼ)ること4時間前――
黒斗と鈴は、とあるゲームセンターでモニターを見つめていた。
「うわああ……頑張れレイちゃん! あと少しやで!」
グッ、と拳を握りしめ、必死にレバーとボタンを操作する玲二に声援を送る鈴。
ゲームセンターでは毎月恒例の格闘ゲーム大会が開催中であり、今まさに決勝戦の最中であった。
並みいる強豪(きょうごう)達を打ち破り、玲二は初の決勝戦に挑んでいた。
3ラウンド先に取った方が勝利する形式であり、玲二も相手も2ラウンドを取っている。
全ての勝敗が決まるファイナルラウンドでは、互いに体力ゲージが赤く点滅している大接戦が繰り広げられていた。
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