第1章 戦いの幕開け

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「栄えある今大会優勝者は、またしてもこの男、乾剛士だぁ!!」    会場全体に響き渡る、司会者の声。  司会者は剛士の腕を持ち上げ、観客は絶叫にも似た奇声を上げる。    対戦格闘ゲーム「鉄脚(てっきゃく)」。今人気絶頂のこのゲームの大会が、今日この東京ビックアリーナで行われた。参加人数50人。皆、地区予選を勝ち抜いた強者達だ。そして、この大会を勝ち抜き、優勝の証のトロフィーを授与されたものは、否応なく、最強の称号が送られる。  そしてこの大会始まって以来初の、二年連続優勝を果たしたこの男、乾剛士(いぬいたけし)こそが、現鉄脚界の最強。神に等しい存在。  しかし、それに反して、剛士の顔は険しい。理由は、準優勝者が欠場した為だった。それも、その相手が良く知った人物であるなら尚のことだ。戦わずして得た「最強」になど、なんの価値もない。 「……ダルイ」  今まで静かだった剛士が、口を開く。そして、司会者の腕を振り払うと、無言のまま壇上を降りていく。 「おいおいおい!どうした、どうした、どういうことだぁ~チャンピオン!まだ終わっていないぞ~!!」  司会者もこれには焦った様子で、慌てて剛士を引きとめようとする。しかし剛士はそれをガン無視し、その足を止めようとはしない。観客達の不満そうな声が木霊する。それがまた剛士をイラつかせた。 「……めんどくさ」  この一言に、静まり返る会場。そして乾剛士は、会場を後にした。
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