プロローグ

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プロローグ

「実は告白されてさ」 伏し目がちな瞳がゆっくりと視線を向けたのはグラウンド。 他よりも特別に感じていた、背番号6の砂埃のついたユニフォーム。 薄い透明な膜に覆われたかのように、トロンボーンやクラリネットなどといった吹奏楽部の混ざり合わない楽器の音や、運動部員たちの活気あるかけ声が遠のいていく気がした。 「それで変に意識し始めてるっていうか…」 窓から横溢する西陽は、真っ白なワイシャツを橙色に染めた。 だけど足元までには届かず、閑散としていた廊下の床の暗さが一層深く濃くなっている。 もともと床が暗いわけではない。 目が眩むほどの夕日に慣れた目が、そんな錯覚を起こすだけだ。 はっきりとした明暗。くっきりとした境界線。 …まるで、あたし達みたい。 「ってこれ秘密だかんね! まだ誰にも言ってないんだからっ」 照れくさそうに話す彼女に、ちゃんと自然に笑えてたのか定かではないけれど。 受け入れざるを得ない現実だけは、十分に理解できた。 彼は、選んだのだ。 あたしの一番の親友を。 あたしと何もかも真逆な子を。
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