第2章

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《第2章の冒頭は、第1章の時系より10カ月ほど前となります》 (ここも、か……。親父(おやじ)のコネも案外、あてにならないな)  沖縄に台風が上陸したと報道された日の午前11時。空梅雨の東京はカンカン照りで、午後には外気温が摂氏38度になるらしい。 品川駅に近い高層ビルの一室。 薄い金属幕をコーティングした熱線反射ガラスの窓の向こうに東京湾があるのだが、面接中の香城渚には眺めを楽しむ余裕はない。   (3社目だし、厄介者扱いにも慣れてきたけど、この尻の置き場のない感じは息がつまるな。さっさと判断を下してくれよ)  9歳で両親とドイツに渡って14年間暮らした。夏休みに一時帰国するだけだった香城が、日本人としての常識が薄いと判断されて当たり前だ。そこは、航空機エンジンの開発者である父親のコネがものを言うはずなのだが、今、採用陣が別室で協議しているのは別の事案だ。  沈黙の長さに、香城の頭に「不採用」の三文字が圧し掛かっていた。とはいえ、さほど深刻には受け止めていない楽天的な性格。    パイプ椅子に浅く腰掛けて姿勢良くしている香城は、慎重な面持ちを装いながら頭の中では日本での就職を諦めだしていた。 (まぁ、仕方ないんだろうな。そこらへんの事情が、如何にドイツと違うかは予想してたし。次の会社、受けても結果は同じだろうし。やはりフランスかオランダにしておけば、よかったんだ)  親の忠告を信じなかったわけじゃないが、エリアスの事が吹っ切れていない香城は、ヨーロッパから離れたいと思っていたのだ。
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