秘密は一つでいい

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「それは悪かった。七尾の眉ん中にホクロがあるって、誰にも一言も漏らさない。だから泣かないで」  開堂が七尾に付き合って、深刻そうな口ぶりで言うと、七尾は微笑んで、「信じがたいな」とささやくように言った。  七尾は、起き上がり、ベッドの上であぐらをかいて、伸びっぱなしの髪をかきまぜるように手櫛でとかす。ぐしゃぐしゃ頭の上でまとめて、ぱっと離す。肩に届くほど伸びた野放図な髪が、顔にかかる。  そして乱れた髪はそのままに、開堂に顔を近づけ、直前で顔を傾けた。唇にキスするかのように近づいておいて、わずかにそれ、開堂の口の端五ミリの場所、七尾の髪ごし、柔らかなキス。そのタイミングが、全ての所作が、ことごとくずるくて、心臓がぐらぐらする。  開堂は、「殺す気か」と心の中で毒づきながら、七尾の腰を引き寄せる。 「こことか、ここ、ここも。そういうことの方が、秘密なんだと思ってた。まさか眉のホクロが地雷だとは、さすがに思わない」  これまで何度もマッピングした――つい先ほどもそうしていた――場所を、こすって撫でた。  七尾は、せせら笑う。 「そんなのは、全然秘密じゃない。俺の性感帯なんて、俺と寝た奴なら誰でも知ってる」  そうやって、いつも七尾は始めるのだ。今はこうしているけど、油断すんな、目、離したらどうなっても知らないよ? お前、この関係にあぐらかくなよ? って。面倒くさい。  七尾、好きだ。ふしだらな奴め。 「ふうん」  不機嫌になった開堂の指は、七尾の背骨の突起の数を数えだす。 「七尾の性感帯が、そんなパブリックな情報だったとはね」  片眉を上げて言うと、七尾は開堂の腕の中で丸くなり猫化した。 「今度検索してみろよ。『柿塚七尾 性感帯』で。たぶんたくさんヒットする」  挑戦的な目で、心底楽しそうに七尾は言葉を投げつける。 「ウィキで出てくる?」 「たぶんね」 「七尾の中に、中指を深くいれて、くの字に曲げると超感じて、イきまくる、って?」  七尾は、声をたてて笑った。 「腰骨噛まれるのが好き、とかね」  腰骨?
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