+それは緩やかに変わっていく+

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「……私は、見てたんだけどなぁ」  右手で指輪を撫でてポツリとこぼす。6年ぶりに会ったあの日、真っ先に見たのは左手の薬指だった。 「……お前だけだろ」 「そうかなぁ」 「そうだよ。俺、車で職場と家の往復 しかしていない日々ですが? 週末はお前といるし」 「そんなの私も一緒だよ」 「違うだろ。電車だし、会社に居る人数もちがけりゃ、いる人間の質も違う。  お前、ぼけっとしてるし、押したらいけそうな感じするし」  真一郎の言葉に、翠は思わず「えぇ?!」と情けない声を漏らした。 「色々鈍いしな」 「それは……、真一さんだからだよ。他の人、無理だもん」  真一郎だから平気なのであって、他の男の人とは2人きりでなんて居られない。  真一郎の側で気が抜けるから、ぼんやりしているように見えるだけで、他の男の人だと、きっと笑うことすらできない。 「だったら尚更、つけとけよ」  小さく笑って言われた真一郎の言葉には「男避けになるから」と言外に見えて、翠も頷きながらふふっと笑を零した。 「……ありがとう」  真一郎は、いつも翠を守ってくれる物をくれる。  指輪も、ブレスレットも。  
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