Prologue

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「んー、そうだね、あれだ、手っ取り早い方法としては思いっきりぶん殴ってみればいいんじゃないかと思うよ。聞くところによれば、幼なじみさんは別に被虐嗜好ってわけじゃないんだろ? 多分それで部屋に不法侵入してきたりはしなくなるんじゃないかと思うけど」 「いや、駄目だろそれは……」 僕の言葉に、自称どこにでもいる普通の高校生こと、貴船 貴々(きふね たかき)はそう言った。 なんだ、人がせっかく頭を捻ってアイディアを絞り出してやったと言うのに。一刀両断にばっさりとは中々友達概の無いやつである。 「ならあれだ。冷静に、ギャグ的な感じで流されないように試みながら、迷惑千万であることを懇切丁寧に訴えてみればいい。それで駄目なら部屋に南京錠を掛ける――は、もうやってそうだから……そうだ、いいことを考えた。こうなったら国家権力に出張ってきて貰おう。すなわち警察に住居侵入罪でしょっぴいて貰えばいいんだ。そうすれば、少なくとも幼なじみさんが刑期を終えるまでは部屋に勝手に侵入されることはないだろ?」 「何でお前はそう短絡的なんだ……いや、確かにそうだけれどさ、でもそこまですることじゃないとも思うんだよ……」 「ふうん」 なんだ。『幼なじみに毎日毎朝部屋に勝手に入られて、無理やり叩き起こされて困っている』と相談してきた割には、その程度の障害だとしか思っていなかったわけか。これは一本取られた。本気で対策を考えていた僕がいい面の皮じゃないか。快刀乱麻の如くアイディアを断ち切られると、流石に少しばかりどうかと思う。 そんな僕の思いを汲み取ったのか、貴船は弁解するように言う。 「いや、まあ確かに迷惑してるっちゃしているんだけどさ……お陰で俺の睡眠時間は飛躍的に短くなっているわけだし……」 「いいか、貴船。僕は他人の睡眠時間を奪う奴が世界で一番嫌いだ。利き手の拳を人体の急所に叩き込んでも無罪放免だろうと錯覚するくらいには」 「刑期を課されるのはお前のほうだなそりゃ」 「知っているか? 人は寝なくちゃ死んじまうらしいぜ。つまり人の睡眠時間を奪う奴は殺人犯と同じなのさ。殺されそうになっているんだから抵抗したって正当防衛だろ」 「屁理屈と言う言葉を知れ」
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