第一章 この時代での男の生き方

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「ふむ。一つ聞きますが自身を浮遊の魔法で浮かばせることはできるんですね?」 くそ。もうこの話題は引きずるな。流せ。別の話題に移行することで『やっぱり許せないから殺す』って結末を回避しろ!! 「あ、はいっ」 怒るなよ。『子猫は浮かばせられないんだ』といった風に受け取るなよ。いや、事実そうなんだろうが、逆ギレ一つで死を招くんだから、気をつけて損はねえだろ。 「なら貴女の体を浮かばせればいいのでは?」 「…………………………ああっ」 ビクン! と心臓が跳ね上がる。 くそ、なんかミスったか!? 普通のことを言っただけだと思ったが。どこだ? どこに問題があった!? と、俺が恐怖で泣きそうになっているというのに、目の前の女は目を輝かせてこう言った。 「確かにそうですねっ」 「…………、」 ああそうかよ。 その可能性も考えてはいたが、本当に頭になかったのかよ! さっきまで俺がガクブルしてたことなどまったく気づいてないのか、ふわりと浮かび上がる魔女っ子。 こういう超常を当たり前の顔で使えるから女は怖いんだ。『魔女』の中じゃ七歳でその座に座ってるような怪物もいるし。単体で国家とやり合えるほどの力を秘めているってことだぞ? あり得ねえだろ。 「お、おっとっと」 ゆらゆらふわり、と不安定ながらも上昇していった魔女っ子が黒の子猫を両手で掴み、降下してくる。 さて、どうするか。 ここで踏み込んで後の『魔女』候補を手中におさめるべきか。 いや、でも相手は俺と同じくらいの年齢で浮遊の魔法を会得している怪物だ。なんの後ろ盾もなく関わっていい相手じゃねえだろ。 慌てるな。 いきなり大物を狙ったって待っているのは悲劇だ。失踪者として事務的に処理されたくなければ無茶はするな。 「あ、あのっ。ありがとうございましたっ。貴方のお陰でこの子を助けることができましたっ」 「それはよかった。では私は用事があるのでこれで失礼します」 まぁ嘘だが。 死にたくねえし。 そんなわけで一礼し、さっさと立ち去ることに。ちゃんとした後ろ盾を手に入れてから機会があれば口説き落とすとしよう。 などと冷静ぶってはいるが、単に怖かっただけなんだよなあ。もうあれだ、普通に泣きそう。
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