傷口

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なーんでこんな人生しか送れないんだろう? 何度思ったかわからない。 学生の頃はもっといい未来を夢見ていたはずなんだけど。 そんなに遠くない過去のはずなのに、学生だった頃がきらっきらに輝いていたような気がして、そこに戻りたくなるのはいつものこと。 人生の挫折が多すぎて、もう何が発端で今がこうなっているのかわからない。 人の波は止まることもなく、目的地へとすべての人が進んでいく。 私はその中で一人、たまに立ち止まる。 置いていかれるような、どこか焦った気持ちになって、また歩き出す。 人生ってなんなんだ? キラキラとネオンで煌めく街の中、細い路地に入る。 さっきまでの道が夜にしては明るすぎたために、外灯があっても道は少し暗く感じる。 路地の中ほどにある小さなスナックの白い看板がやけに目立つ。 普通の家の扉のような店の扉。 開けると、店内は間接照明で照らされ、天井の明かりも暗めに落とされている。 鼻に香るのは煙草と酒のニオイ。 こじんまりとした小さな店内は5つほどのカウンター席と8つほどのソファー席がある。 店内にはカウンターの中に立つ男が一人。 白髪の多い髪をした、眼鏡をかけた少し中年太りを感じる男。 「マスター、おはようございまーす」 私はその中年というよりはすでにじいさんだろと思える男に元気よく挨拶をして、いつものように手荷物を置きにカウンターを抜けた先にあるキッチンへとまっすぐに歩く。 「おはよう、亜稀ちゃん。また遅刻だね」 言われて、壁にかけられた時計を見てみると、私が入る時間からすでに10分過ぎていた。 そう。私はこの店で働いている。 もう二年くらい使っていただいている。 「すみません。今度から気をつけます」 いつものような言葉をはいて謝りつつも、どうせ客もいなくて暇だったんだし、いいじゃないかと思ったりもする。 こんな路地裏とも言える場所にある古びたスナック、そうそう流行っているわけでもない。 店員は私とマスターだけで、私がくるとマスターは仕事放棄でカウンターで酒を飲んだり、外へいったりとかなり自由にしている。 お陰で私も働きやすくて、この仕事をずーっとやらせていただいている。 ここに落ち着くまでは職を転々としたものだ。
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