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先生も忙しいらしく、もうこないのかなと思うくらい店にこなかった。
マスターにからかわれるように先生のことを聞かれたけど、先生が何をしているのかなんて私が知るはずもない。
あれは私の彼氏でも友達でもない。
ちょっと色々と経験浅くて、医者としても男としても半人前な人だと思う。
私にからかわれるじゃなくて。
私を弄ぶくらいの人が多いというのに。
そんな人だからいいのかもしれない。
季節が過ぎて冬。
髪をカットしてカラーリングしてパーマを当ててもらってと気分転換をしたら風邪をひいた。
仕事にいったはいいけど、体が熱くて息切れがひどくて、煙草を吸っている余裕もない。
マスターはお父さんのように、私の額に手をあてて熱をはかってくれる。
マスターの手が冷たくて気持ちいい。
家で寝ているとどうせ一人だし。
ここにくれば声をかけて心配してくれる人がいるから休みたくない。
「インフルエンザじゃないか?亜稀ちゃん。インフルエンザを撒き散らされても困るから、病院いって帰りなさい」
…ここにくれば…。
マスターが言いたいことはわかるけど、しょぼーんとなる。
まぁ、ふらふらして働けたものでもないけど。
仕方ないのでマスターの言うことをきいて、仕事に入って1時間もしないうちに店を出た。
歩くのがしんどい。
立っているのもしんどい。
目を閉じてどこかに座り込んでいたい。
立ち止まって、ぼんやりした頭でぼーっと街を眺めた。
きらきらのネオン街。
みんな楽しそうにどこかに歩いていく。
わからないけど。
両目に涙が浮いて、ぽろぽろこぼれ落ちる。
別に泣きたいわけでもない。
ちょっとしんどいから泣いたのかもしれない。
みんな楽しそうにしていて、私が一人、おいていかれている気分になったから泣いたのかもしれない。
私には誰もいないのに、みんな誰かと一緒に楽しそうにしているから泣いたのかもしれない。
そのへんの道端で座り込んでいても、きっと誰も声をかけてくれないのだろう。
もうちょっと若かったらナンパしてもらえるかもしれないけど。
年の瀬って嫌い。
焦ってくるから。
きらきらのネオン街。
クリスマスの色が少しずつ増えている。
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