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夕日のさす静かな放課後。
「…ふふ緊張してる?そう固くならないで」
茜色に染められた誰もいない空き教室。
下校時刻はとうに過ぎている。この部屋には、俺と目の前の彼女以外、誰もいない。
「大丈夫。俺に任せて」
震える彼女の肩を抱き寄せ、艶やかな髪に指を滑らす。彼女の体から少し力が抜けるのがわかった。
…あと少し。もう一押し、だ。
…コツコツコツコツ
どこか遠くで靴音が聞こえる。
「さぁ、目を閉じて…そう、上手だ」
…コツコツコツコツコツコツ
靴音が近づいてくる。
目を閉じた彼女の耳元で囁く。
「優しくするよ…」
顔を傾けて、彼女に近づけた。
…コツコツコツコツ、
足音が止まった。この教室の前で。
そして。
ガラッ
勢いよく引き戸を開ける音。なんのためらいもないその音が、部屋にただよっていたピンクなムードを蹴散らした。
俺は彼女の顔に手を添えたままで静止し、扉の方を振り返った。
「…またお前か」
呆れたようにこぼしたのは、俺だったかアイツだったか。
とりあえず彼女の表情を窺えば、放心状態のそれだった。
「不純異性交遊」
教室の前に立ったまま、ヤツー神原祐史(カンバラユウジ)が呟いた。
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