484人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
玄関から出ようとしていたその人は
彼によく似た白髪の男性で、
その人の視線がこちらに向いた瞬間、
震えた心臓が大きく音を立て始めた。
彼と、その後ろに居る私とに
交互に視線が移り、
「…朔…、
その…お嬢さんは?」
跳ねる心音に混じって声が届いた時、
「その質問は…野暮でしょう 」
ふっと小さな笑みを浮かべた彼は
私の背を押して前へと足を進めた。
(――――え…っ )
咄嗟に横顔を見上げるけれど、
彼は何でもない風に私を連れて脇を通り過ぎる。
大きく目を開いた二人が視界の端に映り、
一層心臓が音を立てた。
その時、
「 履いて 」
すぐ傍で聞こえた声に咄嗟に前を向き直ると、
視界の真ん中に差し出された手が映る。
最初のコメントを投稿しよう!