椿荘と冬桜 #2

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住井との会食から、今日で1週間が過ぎた。 引きあわせた祖父に言いたい事はあったけれど それに構う暇はなかった。 うちと折り合いがつかないアポッドが、 株式譲渡でのM&Aを止め、 TOB(公開買い付け)に切り替える方針を固めたらしく、 こちらの対策に急を要していた。 信用回復の軸にしている新薬の開発の方は、 臨床試験の結果はすべて良好で、 今週末にようやく発表する手配が整った。 「…朔、」 数時間にわたる会議の後、祖父がこちらに近付く。 おもむろに顔を上げると、 祖父は少し肩を竦めて静かに口を開いた。 「昼に住井会長から連絡があったんだが、  この間の件…、お嬢さんの方からお断りしてこられたそうだ」 「…そう、」 住井の女とその相手が あれからどうなったのか知らない 男が執着しているのは見えていたし、 女の方も困惑していた。
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