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平和な日常、いつも通りの朝。
街の雑踏も鳥のさえずりも、太陽の光の眩しさも風で揺れる森の音もいつもと同じ。
自分もいつも通り。あえて言うとすれば、いつもより寝ぐせが強くついたことくらいだろうか。直すのに少し苦労した。
この町の名はカラン。
由来はこの町の最初の町長の名前で、今の領主の先祖にあたるとか、あたらないとか。
朝日が地平線から離れた頃、きれいな青の瞳と空色の髪の少女が一人、空のバスケットを持って町はずれの豪邸から出てきた、黒色の長袖の上着、その下には真っ白なシャツを着込み、裾に白いラインの入ったスカートを履いている。ブーツは皮製のブラウンで、真新しい。このこの町では朝早くから毎日のように商店街に行列ができる。この町は商人が多く、さまざまな交易品や各地の名産品が集まりやすい。特に早朝の市場ではそれぞれの商品が激安。自然と人々、主に主婦が集まってくる。
そんな大行列の中に飛び込もうという自分が、たまに魔物の大軍に突っ込んでいく勇者のように思えるのはなぜだろうか。普段穏やかで優しい人たちが情け容赦なく人混みを掻きわけて品物を奪い合うからだろうか。
うん、きっとそうだろう。
少女は一人、頷いた。
見れば南の国から来た商人のテントでは、並べられている南国名品高級シルクをめぐって十数人という主婦が取り合いしている。確かに高級シルクには一人の女として興味あるし、道行く少女たちのようにおしゃれもしてみたいとは思うが、今はそれどころではない。
屋敷の食材を購入するのは彼女の役目だ。特にこの大安売りの時は鮮度の高いものも多く並ぶ。よくおしゃべり好きなおばちゃんに話しかけられ、一方的な話を聞くのだが、その際に野菜や果物など、食材の鮮度の見分け方を教えてもらった。やはり買うならば新鮮なものを揃えたい。そのほうがきっと、あの人も喜ぶ。
少女、エルセはまず深呼吸をひとつ。今回の買い物は野菜類のみ。狙いはかすかに見える髪を赤く染めた女店主のテント。ポケットから真っ白なリボンを取り出すと、肩まで伸びる髪を縛る。ポニーテールになったその後、空のバスケットを片手に、金貨がぎっしりつまった財布を片手に人々の入り混じる商店街へ突撃していった。
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