第五章:恋のためらい

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「ということで、私は4ヵ月前から住み込みで橘川家で働いているのデスヨ……」 「ふーん……」 「言い寄られて困っちゃうナー。志信くんって我儘だからいつも連れ回されテー」 (恨むよ、志信くん!!) “演技しろ”って簡単に言っていたけれどこれがなかなか難しい。気を抜くと棒読みになってしまって、幼稚園児のお遊戯会の方がまだましである。 大体、こんな話を信じる方もどうかしているに決まっている。 そもそも、私に志信くんをたぶらかす魅力があるという前提で話が組み立てられているのがおかしい。 私はプレートランチの煮込みハンバーグを八つ当たり気味に次々と口に放り込んではモグモグと咀嚼していった。 本来なら集中して味わって食べたいところだが、今はそれどころじゃない。 鈴花はセットになっていたサラダのトマトにフォークを差しながら尋ねてきた。 「……それで、いつ一線を越えたの?」 10年来の友人の前では、もはや恥じらいや慎みのへったくれもない。 私はハンバーグをあやうく喉に詰まらせるところだった。
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