55.散る山桜 

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「山波、よくやった。  式まで時間がある。少し休め」 何時の間にか背後に居た土方さんの声が、 諭すように告げた。 「……はい……」 小さく頷くと土方さんもまた、 その場所から姿を消していく。 私は……今も整頓しきれていない一連の記憶を必死に処理しながら 重く感じる体を引きずるようにしてその場所から離れた。 どうやって辿りついたのか、どの道通ったのかすら 覚えきれていない記憶の中で辿りついた自室。 山南さんの羽織を抱きしめながら 静かに崩れ落ちる。 それでも……涙は流れてくれない。 「花桜、入るよ」 瑠花の声が聞こえて近づいてくると、 瑠花は崩れ落ちた体を優しく抱きとめた。 「……馬鹿ね……。  総司も花桜も……本当に……  どうしようもない大馬鹿よ」 そうやって抱きしめてくれる瑠花の温もりが、 私の涙腺を解していくようで……。 瑠花を縋りつくように声をあげて泣く。 明日をもう一度歩き出すためにこの涙は必要なはずだから。 山南さん……弱い私に何が出来るかなんて 正直わからないよ。 貴方の旅立ちは立派だったのかも知れない。 だけど……そんなの私にはわからない。 貴方が消えてしまったこの空虚さは変わらないもの。 だけど……それでも決めた私が出来る事。 この世界を精一杯歩き続けること。 貴方が未来を託して守りたかった この新選組を大切な人たちを一番近くで見届けるから。 だから……今だけ泣いてもいいですか? 目が覚めたら、前を向ける強さを抱いて 歩いて見せるから。
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