それぞれの日々

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「ねえ、シンシア。侍女という仕事に誇りを持っているのはわかったけど、それはそれとして何か他にやりたいことはないの?」  シンシアがオレの侍女をしてくれるのは正直とても嬉しい。気心が知れているし、細やかな気遣いも素晴らしい上に、歯に着せぬ助言をしてくれるのも得難い存在だ。何よりもオレはシンシアのことを最も近くにいて親身になってくれる親友か姉妹のように感じている。皇女として、側仕えをどうしても付けなければならないのなら、シンシア以外は考えられなかった。もちろん、姉のソフィアでも構わないのだけれど、年の離れた彼女に対し、どうも頼ってしまいそうでオレ的にはよろしくない感じがした。  そういう訳でシンシアがケルヴィンの誘いを断って、オレの侍女でいてくれることは心底嬉しい選択と言っていいし、手放しで喜びたいところなのだ。  けど、それは本当にシンシアにとって良いこなのだろうか?  シンシアはまだ若く才能に満ち溢れている。無限の可能性を秘めていると言ってもいい。職に誇りをもって勤しんでくれるのは立派な心がけだけど、もっと視野を広げるべきではないかとオレは思ってしまう。 「やりたいことですか? 今のところ、別にありませんが……そうですね。強いて言えば、今度クレイ様の立ち上げる商会にリデル様の名代として参加することぐらいでしょうか」 「今度クレイの立ち上げる商会?」  シンシアの口から飛び出した単語にオレは反応する。 「あ……」  思わず口を押さえるシンシア。けど、もう遅い。 「シンシア、知っていることを洗いざらい吐くんだ。さもないと、超絶くすぐりの刑に処すぞ」 「…………し、仕方ありません。リデル様に隠し事は出来ませんから」  くすぐりの刑を想像したのか、シンシアは身震いして素直に話し始めた。 「リデル様、お約束願います。口止めはされていませんでしたが、クレイ様が直接リデル様にお話なさるまで知らない振りを通していただけますか」 「うん、わかった。約束する」 「では……実はクレイ様なのですが、今回の一件で自分がアイル皇子の囚われの身になったことを酷く後悔していらっしゃいます。そして、その原因をゴルドー商会からの離脱によるものだと結論されたようなのです」 「ちょっと意味がわからないんだけど」 「つまり、ゴルドー商会のような組織力や資金があれば、あんな後れを取られなかったとのお考えのようです」  確かに一因ではあるけど、単にハーマリーナが凄かっただけで組織力は関係ないような気も……。 「だからと言って、一度袂を分かったゴルドー商会におめおめ戻るのはクレイ様の矜持が許さないらしく新たな商会設立を画策するに至ったという訳です」 「新しい商会ねぇ……」  オレが『クレイの奴、また面倒なこと始めたな』程度の認識でいるとシンシアが気の毒そうな表情で聞いてくる。 「リデル様、クレイ様の真意がお分かりになっていらっしゃいますか?」 「クレイの真意?」  ほんの少し責めるような雰囲気のシンシアに対しオレは訳が分からず、ぽかんとする。 「ええ、クレイ様はリデル様のために新しい商会の設立を決めたのです。個人の力ではリデル様を手助けするにも限界があります。けれど、流浪の民の掟により公け《おおやけ》の地位に就いてリデル様を支援することも出来ません」  オレが呆気に取られているとシンシアは続けた。 「そのため、新商会設立を目指したわけです。実際の話、新商会の本拠地は皇女直轄領アリスリーゼと定めていらっしゃるようです」
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