それぞれの日々

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「え? 自分の意思って、どういうこと?」 「どういうことも何も言葉通りの意味ですが?」  お互いの言葉を理解して同時に質問する。 「つまり、今まで通りオレの侍女でいたいってことなの」 「はい、そうですが……お嫌でしたか?」 「とんでもない! シンシアがいなくなるとオレ生きていけない気がする」 「それは単にリデル様が楽したいからのような気がいたしますが」 「そんなことないよ。いつも感謝してるって……それにシンシアって、けっこうオレに厳しいと思うんだけど」 「リデル様のためですから当然です」  こほんとアレイラが咳払いしてオレ達の会話に割って入る。 「お二人が仲の良いことは、大変よくわかりました」  少し呆れながらアレイラがオレ達をジト目で見る。 「えっ……まあ、そうかな。仲良しって言えば仲良しだよね」 「仲良しだなんて恐れ多いことです」  オレが照れながら肯定するとシンシアは恐縮する素振りを見せるが、微かに頬が緩んでいる。ホント、ツンデレさんめ。 「けれど、シンシアさん。よくお考えになってください。行政府に入ってケルヴィン宰相の下で働くということは、ゆくゆくは帝国の中枢となることを約束されているのも同然なのですよ。誰でもなりたくてなれるものではありませんわ」 「ええ、それは重々承知しております。本当に私ごときには、もったいないお話だとも思います」 「でしたら、何故?」  アレイラの疑問にシンシアは迷いもなく答える。 「私は今の仕事に誇りを持っているからです」  当たり前のように話すシンシアにアレイラは目を丸くする。 「……でも、シンシア。貴女の言うそれって、たかだか侍女のお仕事でしょう? 貴女ほどの才覚があれば、もっと重要な職に就けると思うのですけど……」  さすがにそれは言い過ぎだろってオレが口を挟もうとすると先んじる者がいた。 「アレイラ、その言い方は失礼すぎるぞ。シンシアが許しても、自分はちょっと許せないな」  シンシアの横に立っていたオーリエが怒ったような口調でアレイラに物申す。 「こ、言葉の綾ですわ。決して貶めたかった訳では……その、ごめんなさい、シンシア」 「いえ、お気になさらないでください。貴族の方々が、そうお考えになることはよく有ることですので」  シンシアは優しい口調でアレイラの発言を擁護する。どうやら、本気でアレイラを責めるつもりは無いらしい。  まあ、確かに平民の侍女に謝罪する侯爵令嬢もなかなかいないだろうから、アレイラは特殊な部類と言えるだろう。貴族的な考えとしては問題なのかもしれないけど、人としてオレは尊敬できる。アレイラも皇宮で12班のみんなと共に生活して、良い意味で成長したのだと思う。育った環境による固定観念は、そう簡単に変わらないけれど、他人を見下すのが当たり前の嫌な貴族には決してならないに違いない。 「オーリエ様もありがとうございます」 「いや、私だって『たかだか護衛の仕事』と面と向かって言われたら文句の一つも言いたくなるだろうからね」 「護衛と侍女は一定の貴族の方々にとっては調度品のように思われていますからね」 「そうそう、そもそも同じ人間と思ってない。ホント、頭にくる」   「あああ――つ、もうわたくしが悪かったですわ。反省してますから、虐めるのは止してください。リデル……皇女殿下からも何か言ってくださってもよろしいのに……」  当時に戻ったように一瞬リデル呼びするアレイラは心底、閉口したようにオレを巻き込む。 「まあまあ、二人ともそろそろ許してやったら? アレイラも反省してるみたいだし」  アレイラを揶揄うオーリエに釘を刺すと、オレは後ろを振り返ってシンシアに気になったことを聞いてみた。
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