それぞれの日々

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 シンシアの言葉にオレは、どきりとした。  何故なら、今回の一連のごたごたが片付いたら、皇宮から出てアリスリーゼに逃げ出そうと密かに考えていたからだ。  救国の皇女と噂されているオレがいるとイーディスも何かとやりにくいだろうし、何よりレオン、アルフレート両公子からのしつこい求婚攻撃が予想されて面倒だったのだ。  まだ誰にも言っていないのに、クレイの奴オレの考えを読んでたんだ。まあ、長年一緒にいたから、そのくらい当然か。  でも確かにアリスリーゼに引きこもるなら、クレイが近くにいた方が何かと便利……心強い存在と言えた。隠してサプライズを狙っているなら、せいぜい大袈裟に驚いてやるとしよう。 「けど、シンシア。アリスリーゼってレイモンドさん(の商会)のお膝元だろ、大丈夫なのか?」  レイモンド・フィールはアリスリーゼの代理統治官で実質上のアリスリーゼの為政者だ。元は大商人でオレの親父に見出されて今の地位に就いた人物だ。アリスリーゼが貿易都市として名を馳せるのは彼の手腕に寄るところが大きい。  海千山千のレイモンドと渡り合うのはさすがのクレイでも分が悪いだろう。 「そのあたりは、すでに織り込み済みのようです。元々、クレイ様は小さい頃からレイモンド様のお気に入りでしたから」 「そういや、顔見知りで何か因縁ありげだったな」  よく覚えてないけど、アリスリーゼでもそんな話を聞いたような気がする。レイモンドさん、本当はクレイと一人娘のサラリエさんとを結婚させたかったのだとか……婿は駄目でも嫁に出してゴルドー商会と強固な関係を築きたかったらしい。  ただ、オレはサラリエさん(旅の文芸家のサラとして)とアリスリーゼまで一緒に旅したけど、かなりぶっ飛んだ性格だったので、仮に結婚したとしてもクレイと上手くいくとはとても思えなかった。あいつ、意外と清楚系が好きらしいから、ああいいうタイプは好みじゃないみたい。  えっ、オレも清楚系じゃないって? 悪かったな、大人しくなくって。まあ、見た目や性格的に一番ぴったりなのはソフィアだろうけど。スタイルも抜群だしね。  あれ、何か微妙に凹んできたぞ。 「アリシア殿下。クレイさんがアリスリーゼで商会を立ち上げるということは、もしかして、アリシア殿下もアリスリーゼに赴くつもりということなのでしょうか?」  オレとシンシアの話を黙って聞いていたアレイラが険しい顔付きで質問してきた。 「いや、決まってはいないよ。そもそも、クレイの動向なんて今初めて聞いたし、示し合わせてなんていないから」  素知らぬ顔で否定しておく。    逃げ出すと聞いたら、止めにかかる者は多いに違いない。特に、アレイラの上司であるケルヴィンは特にその筆頭だろう。  彼は皇帝の権力が強大化することを危惧するタイプなので、オレという対抗馬いる方が都合が良いらしい。  また、帝国内唯一の独立勢力である皇女直轄領アリスリーゼの存在も危険視していて、オレがアリスリーゼを拠点とすることに反対する立場だった。 「本当ですか? 私としては隠し事をしているように感じま……」 「アレイラ様。イーディス陛下ガ、オ見エニナリマシタ」  なおも食い下がろうとするアレイラにハーマリーナ似の侍女が皇帝の到着を告げた。
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