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一度だけ、いや一度で済む作業ではないのだけど、仁とつながってみたい。ただの自己満足だが、そうしたらふっきれそうな気がしている。
同じ部屋で過ごし、同じ職場で指導され、そろそろ限界にきているのがわかる。切なくて、苦しくて、ただ触れられるだけで息がつまりそうになる。
早くそこから抜け出したい、新しい恋ができれば忘れることはできなくても、時間が、思い出にしてくれるのではないかと甘い逃げをうつ。
「おいアズ、お前の絵図を持ってこい」
仁が三の間から珈琲を手にして遊馬に声をかけた。
「はーい」
刺青のデザインを持ってくるように言われ、和紙がファイルされたスケッチブックを仁に渡す。色々悩んだ末、ニューヨークのタトゥコンベンションで賞を取ったデザインの風神雷神を選んだ。もちろん彫るのは仁と忍だ。
労い彫りのことは忍から聞いて知っているはずなのに、仁はひとこともそれについて触れてこない。忍からは、労い彫りは決定だと聞かされているし、そうなると仁が了承しているということになる。
遊馬が何も訊かないからなのか、それとも生々しいそれを口にするのを避けているのか、顔を窺っても相変わらず飄々としていてわからなかった
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