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お酒は苦手だ。
あまり美味しくない癖に値段は高いし、あげくアルコールに強いせいか酔えない体質もあり、お酒を飲む楽しみも見いだせない。
が、今日ほど酔えない自分を呪った日はなかった。
「初めまして、美々で・・す。」
挨拶に来たその子は、露出こそ控えめだがスタイルの良さがわかるタイトなドレスに、髪をアップにさせ、濃いめの化粧がその場にあった、恋人だったからだ。
「なんだ?知り合いだったのか?」
「いえ、知り合いに凄く似てたもので、驚いただけです。」
咄嗟に、他人の振りをした。
それは正解だったようで、彼女もまた女優のように表情を戻し、社長の隣に座った。
注がれた水割りを一気に飲み干し、そっとテーブルに置いたはずだが、カランと氷が大きな音を立てた。
「どうだ、高梨。凄い美人だろ。」
「ええ、とても。ここでは長いんですか?」
「・・・・・。」
「美々さんは2年ぐらいですよ。新人にも優しくて、スタッフにも凄く人気なんです。」
黙り混んでしまった彼女をフォローするように、新人らしき隣に座っていた嬢が喋った。
「そうなんですか。君はまだ入りたて?」
「はい、今日で1ヶ月になります。」
「そっか。頑張ってるね、水割りおかわり作ってくれる?」
自分と話せば、営業しずらくなると思い、隣の子に話しかけるようにした。
それが良かったのか、彼女も社長と笑顔で話すようになる。
少しだけほっとしたが、それを超えてイラッとした。
「お、今日は飲むな-。」
「社長の奢りで、高いお酒ですからね。遠慮はしませんよ。」
いつもは飲まない私の暴飲を楽しむ社長。
ドンペリを入れられ、ほぼ一人でそれを飲んだ。
ただの苦い炭酸水のようなものだったが、今の自分には丁度良かった。
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