第二章:灯火(ともしび)、揺れて

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視線を合わせた瞬間、互いが分かる。 それは、写真で既に見知った顔を探り当てたというよりも、見知らぬ顔の間から、自分に似た面影が不意に浮かび上がった感じだった。 「ゾヤ!」 スーツケースを自分の脚に引き寄せつつ、何も持たない方の手を上げる。 「ナディア!」 波打つ焦げ茶色の髪を肩まで垂らし、チャコールグレイのワンピースを纏った従妹のゾヤが人懐こい笑いを浮かべて近付いてくる。 その姿から、この子も私と同じで、モノトーンの服が好きなのかもしれない、と思う。 派手やかな顔立ちに比して、白とか黒とか灰色とか色味のない服を。 彼女の隣では、金髪のアンリが白いシャツにブルーのジーンズを履いた出で立ちで、空色の目を微笑ませていた。 ゾヤのボーイフレンドだ。 二人とも、ゾヤのメールに添付された写真よりも、もう少し若々しい雰囲気だ。 むろん、ゾヤはまだ二十五歳で、大学の同期だったというアンリもたぶん同い年だろうから、年齢として若くて当然なのだけれど、白人は写真だとどうしても同年配の日本人より老けて見える場合が多い。 皺や弛み、あるいは体形の崩れといった明らかな老化の兆候が現れていなくても、表情が決然としていてあやふやさがないからだ。
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