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第1章
不気味な程に静まり返ったリビング中央。にらみ合う二つの立ち姿――。
「……わからないよね……」
和貴の目の前には、溢れる感情の渦に相好を崩した少女が立っていた。
眦から溢れ出た涙が、泣き濡れて真っ赤に染まった頬を伝い床にこぼれ落ちている。
「あんたなんかに……手を離されたあたしの気持ちなんかっ!」
「――ッ!」
その瞬間、和貴の心は一年前の断崖へとフラッシュバックしていた。
吹き荒れる強風の中、和貴の魂は彼女の手をしっかりと握り、彼女の叫びを聞いていた。
「あの時のあたしのショックが……」
震える少女の声に、ハッとして目を見開く。
今の彼女の姿は、顔貌は――。アレは紛れなく和貴の知ってる深月だ。和貴を信じ、最後まで和貴の手を離そうとしなかったあの深月だ。
「わかってたまるかぁ!」
「――深月ッ」
キンキン響く彼女の痛切な叫びが和貴の心にダイレクトに突き刺さる。
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