第1章

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タイトル:『箱庭戦争(はこにわせんそう)』  戦争が、終わったらしい。  時代の節目、『喬国(きょうこく)』という名の一つの国が滅びた。長らく続いた争いを終わらせる為、隣接する三つの都市国家が一時的な協定関係を結んだそうだ。喬国は各方面からの一斉攻撃を受け、決着は瞬く間に付いてしまった。  築き上げた文明は戦火に焼かれ、国民の大半は命を落とし――――。  国家として存続する事すら認められなかった喬国は、領土も人民も……残された全てが三つの勝戦国の管理下に置かれる事となった。  国民はいずれかの国の許可さえあれば新しい国籍を得られるという事だったが、戦後すぐにその許可を与えられた者は大きく分けて二つ。  一定の金を納めた者と、何らかの能力が評価された者。  どこの国も、金持ちや優秀な才能の持ち主にしか用は無いと言っているようなもので。  僕たちのような一般の家庭の者たちは、ほとんどが取り残される形となったのだ。  それから一年が過ぎた頃、『真生館(しんせいかん)』という一つの学校が建てられた。  それは国を失くした元喬国の子供たちの為に三カ国が共同で建立したもので、驚いた事に学費等の負担は全て国が請け負ってくれるという話だった。  一期生として通う事になったのは、年齢もバラバラな200人弱の生徒たち。厳正なる審査の結果、十代後半の男女を選出し……との事だったが、詳しい経緯はわからない。  僕はその生徒の1人として全寮制である真生館へと通っている。  未だに所属する国を持たず、貧しい生活を送っている元喬国の人たちは数多くいる。僕の両親もそういった境遇であり、ここを卒業して家族の為に働きたいと考えている生徒はたくさんいた。  戦争の痛みや苦しみは過去のものに、今では誰もが希望に満ちていた。 「それでは皆さん、戦争を始めましょうか」 ――そう。長期休暇を前に、久しぶりに家族の元へ帰れると喜ぶ僕たちに告げられた、その言葉を聞くまでは。
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