第一話(粗筋)

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 飛躍的発展を遂げた未来―。世界は未曾有の社会問題に直面し打開策を模索していた。その病弊とは、世間に於いて対人恐怖症、醜刑恐怖症等の精神病者達が増殖し続け、遂にはその患者数が正常者層をも超越してしまった逆転現象に起因している……。コミュニケーション不全が時代的な重要案件として取り沙汰されている中、人心の疲弊は益々深刻化を見せ、ニート・引き篭もりは増加の一途を辿っていた。その潮流は止む事無く加速し続け、寧ろ蟄居する生活こそが一般的常識として世俗へ浸透し始めて行く……。誰一人として積極的な外出や他者とのコミュニケーションを図ろうとせず、外界は無音の世界と成り果てていた。 政府はそんな社会機能が麻痺して行く状態を危惧し、或る画期的な法案を発布した。コミュニケーション不全と言う社会的命題を打破する為に、新規開発した高性能ヘッドギアを全国民へ支給し、装着を義務付けさせたのだ。電脳ヘッドギアの装着を国民的義務として制定する事で、人民全員の素顔及び、個性やプライバシー性を打ち消そうと言う意図だった。更にヘッドギア内部にはその装着者で在る本人の個人情報が詳細に記録され、GPS機能が付加されている。政府は一手に管掌している電脳ネットワークとヘッドギア内部に於ける映像機能等も連動させ、一般市民の行動を常時電子監察するに迄至った。他に、ヘッドギアはあらゆる生活支援を行う万能的な電化製品と言う側面も併せ持つ。ネット機能を連携させ作成された生活予定表を閲覧し日々の行動を取る、何事かの調べ物を百科事典の要領で情報を引き出す。内部電脳は電子鑑札も兼ねるので、相互の認識番号を赤外線通信で照会する事や身元記録も出来れば、電子マネーでの買い物取引等も可能だ。電話やメール等一連の通信機能としても活用出来る上、他には地図表示、音声や映像の記録、テレビ、ラジオ、音楽、映画等の鑑賞等、放送媒体迄もヘッドギア本体のみで事足りる……。ヘッドギアに由る素顔の隠蔽、電子監察、テクノロジーの利便性。これ等の相乗効果に由って懸念されていた一連の社会問題は解消され、犯罪率迄もが極端に減少させられたのだ。世界は有史以来前例に無い程の恒久的な安寧秩序を獲得し、中枢たる電脳都市は益々の隆盛を極めて行く……。 しかしそんなヘッドギアの恩恵を享受する社会へ、日々疑念を抱き鬱屈としている青年が社会を揺るがすテロを成功させる。
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