2人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
学校へ足を運ぶ回数が増えると、研究室での力関係がわかってきた。
柊山の研究室で、No.1は間違いなく幸宏だ。
彼は様々な顔を持つ。
少年のような、小学生のような幼さを見せる反面、学習の場にあっては公平で何とも手強い論客となる。
普段も授業中のままなら男前と言えるのに。
幸子はため息をつく。
というのも、毎日、顔を付き合わせると、授業中に感じた紳士且つ論客ぶった対応はどこへやら。いきなり軟派に変わるからだ。
人のことを『野原さん』から『さっちゃん』と、今では親しい友人や家族ですら呼ばない呼び名でずけずけ呼ぶ。
年上の女性に向かって、さっちゃんだなんて。失礼もいいところだわ! と拳を握り締めた。言い返したいけれど、同じ土俵に乗るようでシャクだから、聞き流していたら『さっちゃん』が彼女を指す呼称として定着してしまった。
本当にイヤな人!
そして、彼は何だかんだと理由をつけて彼女に話しかけてきた。
研究室内でも他の学生から様々なお誘いを受けていたから、彼らから話しかけられても紅一点への社交辞令と、適度にあしらえた。けれど、幸宏は、その社交辞令の観点がすっぱり抜けている。
まるで身内に話すように他愛ない話をぶつける。そして妙な誘いを一切かけない。
まるで弟ができたみたい。幸宏相手だと、つい地が出てしまいそうになる。
あぶないあぶない、気をつけないと。幸子は勝手が狂ってしまう。
幸宏は鬼門だ。なるべく近寄らせないにこしたことはない。
最初のコメントを投稿しよう!