【4】 好敵手 

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学校へ足を運ぶ回数が増えると、研究室での力関係がわかってきた。 柊山の研究室で、No.1は間違いなく幸宏だ。 彼は様々な顔を持つ。 少年のような、小学生のような幼さを見せる反面、学習の場にあっては公平で何とも手強い論客となる。 普段も授業中のままなら男前と言えるのに。 幸子はため息をつく。 というのも、毎日、顔を付き合わせると、授業中に感じた紳士且つ論客ぶった対応はどこへやら。いきなり軟派に変わるからだ。 人のことを『野原さん』から『さっちゃん』と、今では親しい友人や家族ですら呼ばない呼び名でずけずけ呼ぶ。 年上の女性に向かって、さっちゃんだなんて。失礼もいいところだわ! と拳を握り締めた。言い返したいけれど、同じ土俵に乗るようでシャクだから、聞き流していたら『さっちゃん』が彼女を指す呼称として定着してしまった。 本当にイヤな人! そして、彼は何だかんだと理由をつけて彼女に話しかけてきた。 研究室内でも他の学生から様々なお誘いを受けていたから、彼らから話しかけられても紅一点への社交辞令と、適度にあしらえた。けれど、幸宏は、その社交辞令の観点がすっぱり抜けている。 まるで身内に話すように他愛ない話をぶつける。そして妙な誘いを一切かけない。 まるで弟ができたみたい。幸宏相手だと、つい地が出てしまいそうになる。 あぶないあぶない、気をつけないと。幸子は勝手が狂ってしまう。 幸宏は鬼門だ。なるべく近寄らせないにこしたことはない。
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