【4】 好敵手 

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幸宏の次席、つまりNo.2は、彼女を柊山の元に案内した学生だった。柊山の自称助手という役所だ。 彼だけはどうしても名前を覚えられない。福留という名があるのだが、どうしても出てこない。多分――彼が一番、女としての幸子に興味を持っているからで、それは彼女にとって歓迎せざることで、時々寒気を催したからだ。 しかし、No.2といえども、幸宏との差は余りに開きすぎ、本当に教職を目指しているのだろうか、疑わしく思った。 冷静になって観察すると、幸宏には正直歯が立たない。悔しいけれど、それは認めざるを得ない。 けれど、No.2氏には負けたくなかった。勝てないはずがないと思った。が、それは感情が勝っての思い込み。幸宏にも福留にも冷静に対処できないと幸子は観念した。 幸子が大学で席を温めるようになって日が浅いある日、もうひとりが仲間に加わった。 入って来た相手を指差し、「あれ、君!」と幸宏は席を立つ。 誰に対しても初対面の人には同じことをするのかしら、と呆れかけたがさにあらず、相手も「おや」という顔をした。そして同じく指差して言う、「君か」と。 「元気だった?」 「さほどでもないが」 少し引っかかりのある深い声で応える彼は顔色があまり良くない。 「君も、来たんだね」と問う幸宏に、相手はこくりとうなずく。 「あそこではもう学ぶものがない」 幸子はついふたりの方を向いていた。 幸宏は、元々白鳳にいた者ではない。はっきりと聞いたわけではないけれど、帝大出身という噂だ。柊山に誘われて移籍したという噂が本当なら、帝大がたいしたことがないと言っているようなものだ。 誰なの、この人。 幸子は改めて入って来た人物を眺める。 席を立ち、相手の元へ行く幸宏が隣に立つと、改めて幸宏はチビなのだとわかる。 いや、幸宏の背に低さを差し引いてもかなりの長身の男性は、尾上慎と名乗った。
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