第1領域 プロローグ

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  「オイオイ支部長さんよォ…… こ・れ・は、どういう了見だ」  大声で檄(ゲキ)を飛ばすのは、一見小柄な黒髪短髪の男。すぐ隣に座るのは、静かにコーヒーを啜(スス)る華奢な身体つきで、ブロンドのサラサラとした長髪の女性。  その様子を彼等の向かいのソファにもたれながら、涼しげな表情で腕を組む赤い髪の男と、双方の間に置かれるミーティングテーブルの正面で恐縮した表情を見せる金髪のさっぱりとした髪型の男。  何一つ言葉のキャッチボールがないことに痺れを切らしたのか、黒髪の男は喝(カツ)を入れるかのように、ミーティングテーブルをバンッと右手で激しく叩き、身を乗り出しながら赤髪の男の目の前に、黒革の手袋をはめた左手に持つ1枚の紙を突き付けた。 「迷子の子猫探しで700ψ(プスィ)って、ガキの使いじゃねェか!」  黒髪の男が一気に怒鳴り散らすと、隣でソファに腰をかけていた華奢な女がテーブルの上にコーヒーを静かに置くと、蒼い瞳が赤髪の男を捉えた。 「今回ばかりはクゥ――じゃなくてクラウスの意見に賛成です。 700ψぽっちの依頼料で代理人(エージェント)を2人というのは理解に苦しみますよ」  女がそう言い終えると、黒髪の男“クゥ”もとい、クラウスの左手から依頼書がヒラリと宙を漂い床へ落ち、まるで打ち合わせをしていたかのように、クラウスと華奢な女がソファから重たい腰を上げ、席を立つ。 「そういうことで! ルシアもそう言ってる訳だし、他に当たってくれ」  先程までのクラウスが放っていたピリピリとした気迫はなく、穏やかに――寧(ムシ)ろ清々しいといった表情で言い捨てると、既ににドアの前で待つ華奢な女“ルシア”の方へと歩を進めた。 「フフッ そんなに怒るなよ ――なぁ? 隻眼(セキガン)の」  ピクリと、軽やかに笑う赤髪の“イヴァーノ”に対してか、隻眼と呼ばれたことに対してか分からないが、怒りの反応を示したクラウスは、金色の瞳をした右眼だけでギロリと睨みつけるが、左眼には頬までを覆い隠す眼帯を付けていた。  ドアの近くに居たルシアも信じられないといった呆れた表情でイヴァーノを見るが、イヴァーノは気に止める様子もなく「レオンス、例のものを」とだけ金髪の男“レオンス”に伝えると、彼は恐縮しきった表情で懐からきちっと三つ折りに畳まれた紙を取り出し、ドアの前の2人の元へと歩み寄る。  
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