第1領域 プロローグ

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  「すみません。 私は止めたのですがイヴァーノ支部長がクラウス君の困った顔が見たいと言われまして…… ルシアさんにも、申し訳ないです」  クラウスは、レオンスの言葉を聞くなり更に凄みを増してイヴァーノを睨んだまま紙を受け取り「アンタが謝ることじゃねェよ」と言うと、クラウスより15cm程小さいルシアの身長に合わせるように屈み、2人で手渡された紙に目を通す。しかし、紙はルシアの手元へと残り、クラウスの鋭い視線と身体はすぐにレオンスへと向けられた。 「……どういうことだよ」  神妙な面持ちのクラウスの質問に対し、レオンスはスゥっと眼を細めると、重たい口を開いた。 「大半は目を通して頂いた通り、ここ数日で37人ものニューブラスカの民間人が殺害されました。 私達の現時点での調べによると、通算150人以上もの死者を出しています」  クラウスはもどかしさにも似た怒りを露にし、イヴァーノを今にも噛み付きそうな表情で見る。同時に、ルシアも驚きを隠せないといった表情で同じくイヴァーノへと眼が向けられた。 「ルシア、隻眼の。 お前達の言いたいことは分かるが、我々が依頼したい内容が――そいつだ」  レオンスは再度、懐から1枚の写真を取り出しクラウスへと渡すが、ルシアは見えないのか斜め後ろで爪先立ちをしながら、写真を覗き見ようと試みる。 「まだ若い女じゃねェか。 さしずめ――犯人を捜索してからの復讐。 それが依頼で、この女が依頼人ってとこか? 見るからに幸薄そうな女だ」  レオンスはクラウスから顔を逸らし表情を曇らせるが、その様子に気がついたイヴァーノはハンッと鼻で笑い飛ばし、体勢を起こして前傾姿勢に座り直す。 「まぁ、座れ。 話はそれからだ。 レオンスは例の物を」  クラウスとルシアは納得がいかないといった表情で、一瞬だけ顔を見合わせたが、渋々といった様子で再びソファへと腰をかけ、その様子を確認したレオンスは隣の部屋へと続くアーチをくぐり、乾いた足音が遠退いていった。    
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