第1章

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第1章

 春。うららかな季節。全ての生命が目を覚まし、植物が芽吹き、小川は息を吹き返したかのように流れだす。止まった時が動きだし、まさに生を象徴するような季節である。もちろん、少年ティムの町にも春は訪れた。  少年ティムは生まれて間もなく両親に捨てられた孤児である。小さな箱の中にボロ布でくるまれて捨てられていたところを、イーリス神父に拾われ、教会で玉のように育てられた。教会での生活は、今年で15年目である。  少年ティムは春が好きだった。命の恩人、イーリス神父と同じほどに好きだった。春もまた、自分に生命を与えてくれる存在だと少年ティムは思っている。  しかし、命溢れるこの季節に招かれざる客が現れた。 ◇◇◇  それは、正午過ぎ頃。少年ティムが教会で留守番をしていた時だった。 「ワタシを……埋葬して下さい」  ドキンッと胸が跳ね、少年ティムは言葉を失った。  教会に響き渡るノックの音。それに応え、扉を開けたらこの娘がいたのだ。ただの娘ではない。少年ティムが絶句した理由は彼女のその容貌にあったのだ。  色を失いつつある長くも短くもない髪。片目は落ち窪み、腐敗している。もう片方も異常で、虹彩は色を失い、虚ろを向いている。口元も腐り、裂け、歯茎が剥き出しの状態だ。身体も全体的に腐り、血色がない。元は白かったであろうワンピースも血赭で染まり、皮膚を押し退け、肋骨が露になっている。  少年ティムは、神聖なる教会にゾンビを迎え入れてしまったのだ。
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