第1章

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僕たちは町を歩く。僕たちは電車に乗る。車に乗る。バスに乗る。何の疑いもなく。あの日から僕は、そんな自分が、そんな平和が、とんでもなく恐ろしく思えた……。 久しぶりにヒロから連絡があったのは3週間前だ。 『おっす! 最近どう? 亮って今社会人だっけ?』 ……嫌な予感がした。 それは僕がニートだからじゃない。ヒロはそれを知っているはずなのにも関わらず敢えて聞いてきたからだ。 『いや、相変わらずの穀潰しですよ』 『ちょっと金になりそうな話あんだけどどう?』 ……やっぱりだ。ヒロはいつもこうやって僕を道連れにしようとする。  高校時代からヒロはそうだった。 「亮って化学の課題終わってるんだっけ?」 「英語の時間でやろうかと」 「じゃあ部活の時間までとっといて一緒にやろ」 「なんでよ」 「いやいや、いいからさ、とりあえず、な?」 「え? だって提出今日までだし、それに今日コーチ来る日でしょ」 「だからだよ! 俺あの人嫌いなんだよ」 こうやっていつも僕はヒロの共犯者にさせられていた。  ヒロのメールを読んで、すぐにこんな記憶が鮮明に甦ってきた。とはいえ大学を出てもうすぐ2年。さすがに危機感を感じていた僕は、嫌な予感を抱えたまま、とりあえずヒロの話を聞くことにした。 待ち合わせの場所に着くと一瞬でヒロを見つけられた。 都会のど真ん中でサッカーのユニフォーム姿の男は外人の観光客かヒロくらいなもんだ。 昔のヒロとの違いで言えば肌が少し白くなった事と腕にキャプテンマークを巻いているところくらいなもので、あとは高校の時のヒロそのまんまだ。と、思った。 「ヒロ!」 そう呼んだ時、僕はヒロの違和感に気づいた。 僕の声にビクッと反応して、人目を避けるようにして僕の方に駆け寄ってきた。 僕の知っているヒロにとってそれはとても異常な反応だった。ヒロは自分が世界の中心であるかのように堂々と道の真ん中を歩く。そんなやつだった。 「よっ。久しぶり。とりあえず、うち来いよ」 「え? お前どうしたんだよ」 「いやいや、いいからさ」 久々の再会にも関わらずとっさにこんなことを口走ったのはヒロと出会って9年間、ヒロが僕を家に呼んだ事なんて一度も無かったからだ。 「お前、誰だ?」とでも言ってやりたかった位だったが、 「いやいや、いいからさ」 の一言で目の前にいるそいつは間違いなくヒロだと確信出来た。
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