第1章

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 その日は、まだ5月なのに蒸し蒸して暑い日だった。 流れる汗をふきながら、「お母さんアイスあったっけ??」と声をかけた。  母は、庭で草取りをしていたが、こちらを振り返ろうともせずに、 「扇風機あった?雨がふるわよ。」と返された。振り返ったが脚立がないと届かない。 うちは、物置のことを蔵と呼んでいる。古い家なので、蔵の中には、よくわからない木箱や、道具が沢山ある。代々和菓子屋をしているうちの蔵には、そんな道具とストーブやスノーボードが漫然と並べられていた。ちなみに私は和菓子が苦手だ。 「はいはいっ扇風機。扇風機。」それらしいものを探し、脚立にのって扇風機らしきものを取ろうとしたら、隅のほうにキラキラした装飾の箱が見える。お菓子の箱かな。ゆう子は、なんとなく手にとってみた。よくわからない金色の文字で飾られた箱は、ほこりまみれだったが、花をモチーフにしたセピアな色合いのかわいい箱だった。かなり年代物のようだ。 「お母さん、これ何?」と聞くと、怒ったように「扇風機あったの?」と言われたので、慌てて新聞紙にくるまれた扇風機を取り出した。「あったよ。縁側においとくよ」母をちらりとみて、そそくさ、お菓子の箱をもって二階にあがった。  部屋に帰って、ほこりをとり、どきどきしながら、箱をあけてみると、重厚な石造りの町並みの絵葉書と双頭の鷲をあしらった金色の大きな鍵がでてきた。絵葉書には文字が書いてあったが、異国の文字で、もちろん書いてあることがわかるわけもなく、鍵のほうもあまりに大きく重い鍵で、なんの鍵か想像もできなかった。なにしろ、うちは田舎で、玄関にも鍵をかけるような家ではなく、自転車の鍵と車の鍵ぐらいしかみたことがなかったからだ。   なんとなく、その箱を思い出箱にしまい、そして忘れてしまっていた。  
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