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夏に向かう夕暮れの空は、まだ明るい。
誰もいないグラウンドを、私と世良は階段に並んで座り、眺めていた。
「あ、そうだ」
隣で世良が思い出したように言う。
デニムのポケットに手を入れて、何かを取り出す。
「これ」
私の目の前に差し出した手のひらに、片方だけのイヤリング。
「これ返しても、また会ってくれる?」
この前と同じセリフを言うから、私は吹き出した。
「うん」
笑いながらそう返事して、世良の手のひらからイヤリングを受け取る。
あきちゃんに借りたままのイヤリング。
これでやっと返すことが出来る。
スカートのポケットからハンカチを取り出し、イヤリングを包む。
「ふふ……」
ハンカチをポケットに戻し、隣に座る世良を見上げた。
「世良は遊びで私にキスしたと思ってたから、世良が本当のことを知ったら、もう会えなくなるって思ってた」
そう言ったら、世良がちょっと困ったような顔をした。
「……まあ、たしかに、あの時のキスは、遊びだったかもしれないけど……」
私の方から抱きついてきたから、それに応えただけのキス。
世良がそう思ってたのは、もう、ちゃんと、知っているけど。
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